さて、前回の記事は青森県産コクワでしたが、同じコクワ繋がりで今回は紀伊大島産コクワの記事になります(これでひとまず国産ネタは一段落します)。
約1年前、ヒラタクワガタを目当てに行った紀伊大島にて、副産物的に沢山採れたのがこのコクワ達でした(ほとんどのクワガタ屋はむしろこのコクワを目当てに島へ行くんですけど)。この時は自身初めての県外遠征でしたが、なるほど確かに遠征してみると我が青森県に遠征してくる人の気持ちが解かりますね。コクワやノコギリみたいな普通種でも有り難く採って帰るのも頷けます。
採ってきた個体を大事に小分けにし、そこから早い個体では1ヶ月で蛹化してしまいました。そこから他の幼虫も続々と変態し、正直なところ「早過ぎて管理ダルいよ…!」と焦ったりもしたのですが、やはり遠征で採った個体が成長していくのを見ると安心感を強く覚えますね。
羽化が早かった分、いたずらに急いで掘り出さずに自ずから蛹室から出てくるのをゆっくり待つつもりでしたが、結局夏前にすぐ出てくる個体が大半でしたね。
最初の羽脱個体は4月21日に出現。赤いとは聞いてましたが、実物は書籍とかで見て把握していたよりもしっかり赤く、↑↑このまましばらく眺めていましたね。なるほど確かに「赤いコクワガタ」です。
そして、今現時点で他の個体達も(生存個体は)全て羽化してしまったので、羽化個体の記録をまとめてみます。
まず、共通データは以下の通り。
【産地】和歌山県 東牟婁郡 串本町(以下大字まで有り)紀伊大島
【累代】WILD 幼虫採集(F0)
【初回エサ投入】2024年1月10日
【使用マット銘柄】きのこの山製 LBマット
【管理温度】22~24℃
…今どきって「F0(エフゼロ)」使うっけ…?
ちなみに、亜種記載されている他産地の「赤コクワ」と違って、本産地は特徴に濃淡があると言われています。赤みのある個体は本産地の見どころなので、今回は面倒臭がらずに羽化個体全てを紹介していきます。体色については、主観で〈赤レベル〉を5段階(赤い★が多いほど赤みが強い)で判断しました。
なお、紹介の順番は蛹化/羽化順で、♂♀混交です。
次に、表記の説明を。
〔蛹化〕=当日に蛹へ脱皮したこと
〔羽化〕=当日に成虫へ脱皮したこと
〔羽化確認〕=脱皮が当日ではなく、既に羽化して数日経ていること
〔羽脱〕=成虫が自力で蛹室を脱したこと(当日または数日後に確認)
〔掘り出し〕=まだ蛹室に留まっている成虫を掘り出したこと
今回はヒラタの時と同様、しょっちゅう温室を開けて確認していたので(ダメーー)日付はわりと正確な方です。
①♀-1(マット飼育)
2024年2月13日 蛹化
2024年3月6日 羽化
2024年4月21日 羽脱 25mm
〈赤レベル〉★★★★★
記念すべき羽化個体第1号! 自身の採集経験の中で、青森県内で赤味を帯びた♀個体は大体「前胸背板のみ局所的に赤い」だけでしたが、この個体は頭部背面以外はほとんど赤味がかっています。ちなみに、記事中で掲載した個体写真は全て晴れの日の日陰で撮影しています。ネットオークション等の販売で、この手のカラーリングの虫を日光下で撮り、やたら赤味を強調した写真を載せる人がいますが真似したくないものです。
ちなみに、この個体だけ↑↑の写真の縦長ブロー容器に入れたんですが、他の個体より羽化が早かったのはこの容器のせいなのかな…? この容器を選んだ理由は、単に懐かしい容器なのでお遊びで入れてみようと思っただけなのですが、正直言ってこの容器は幼虫飼育に向きませんね。元々開いていた小さな空気穴もそうですが、その位置も悪い(中央に1個)し、縦長で二酸化炭素が溜まりやすい構造なのは成長や生存に悪影響しかないですもんね。加えて、羽脱後もこれで管理していますが、活動が鈍くエサの減りも僅かで、やっぱりイイ事無いですわ。
もうこれ、生体輸送容器か何かで使っちゃった方がいいのかねぇ…
②♂-1(マット飼育)
2024年2月16日 蛹化
2024年3月12日 羽化
2024年7月10日 羽脱 31mm
〈赤レベル〉★★★★★
2頭目は♂でした。元々3令で採集していましたから不思議でもありませんが早かったですね。欲を言えばもうちょっと成長してほしかったですが、色味はきちんと出ているので充分です。
ちなみに、この「600ガラスビン」ですがナゼ『600cc』と書かないか分かります? 実際には肩口までで400ccちょっとしか容積がないのですが、業界的には「広口600」で通じるのであえてこうして表記しています。
③♀-2(マット飼育)
2024年2月22日 蛹化
2024年3月16日 羽化
2024年7月29日 羽脱 26mm
〈赤レベル〉★★★★★
こういうのも出てきちゃうんですねぇ、赤みが全くありません。
強いて言えば、腿節にほんのちょっと色が差しているように見えなくもない事もない様な気がするかもしれないみたいな・・・ ←程度には赤いですが、ここまで言ったら本土と同じレベルやん!
④♂-2(マット飼育)
2024年2月21日 蛹化
2024年3月16日 羽化
2024年5月15日 羽脱 38mm
〈赤レベル〉★★★★★
先の②♂‐1よりは大腮が伸びています。ただ、赤みが弱くてこれも本土で採集していればたまに見つかるレベルですよね。
あと、ちょっと撮影の角度? ライティング? の問題なのか、ちょっとツヤ消し状になっているのが気にかかります。南方の赤コクワをイメージすると、どっちかと言えば光沢感がある方が見栄えがするので、この♂は種親にはしないでしょうねぇ…
⑤♂-3(マット飼育)
2024年2月27日 蛹化
2024年3月25日 羽化
2024年7月17日 羽脱 39mm
〈赤レベル〉★★★★★
サイズは先の④♂-2と似たようなものですが、写真の印象が全然違います。撮るのヘタなだけですね。赤みは④♂-2より強いようにも見えますが、★2つはだいぶ甘く見積もっています。実際は似たような感じです。
ただ、個人的には大腮の形は気に入りました。全体が細くて内歯は小さく、離島の亜種っぽさが感じられます。
⑥♂-4(マット飼育)
2024年3月3日 蛹化
2024年3月30日 羽化
2024年7月23日 羽脱 32mm
〈赤レベル〉★★★★★
小さいですが、ちゃんと赤コクワしてますね。程度で言えば②♂-1と同等か、ほんの僅かに劣るくらいです。
形態的には、青森のと比較して
・ちょっと細い
・大腮の歯型がやや発達気味
で、青森産のやや中型クラスの体型に寄っている印象があります。このサイズで青森だと、ほとんど小歯型で内歯も無くて、体型も丸っこくて前胸背ツルっツルです。こういう個体を見ると、「う~んあんまり大きくならんのかなぁ?」と思ってしまいますね。
⑦♀-3(マット飼育)
2024年3月8日 蛹化
2024年3月31日 羽化
2024年7月29日 羽脱 23mm
〈赤レベル〉★★★★★
赤レベルがかなり高い個体です。特に前胸腹板の赤み(写真右)はオシャレで美しいです。
⑧♀-4(マット飼育)
2024年3月14日 蛹化
2024年4月9日 羽化
2024年6月1日 羽脱 24mm
⑦♀-3以上に真っ赤なのが、この個体でした。
文句なしで★5つと付けました。先に言ってしまうと、この個体が今回の羽化個体で最も発色が良かったです。特に裏側なんて、青森では想像も出来ないほどコクワとして別物です。改めてことわっておきますけど、これ『日陰』で撮ってますからね。
⑨♀-5(マット飼育)
2024年4月21日 蛹化
2024年5月21日 羽化確認
2024年7月11日 羽脱 24mm
〈赤レベル〉★★★★★
前の個体と比べると「うっわ、黒い!」と思っちゃいますね。辛うじて前胸背に赤みが視認できますが、種親にはしないですね。
ちなみに、この個体は♀成虫を採集した時と同じ材から出た個体です。あっちもほぼ真っ黒だったからねぇ…
⑩♀-6(マット飼育)
蛹室内部が見えず蛹化・羽化日は不明
2024年7月30日 羽脱 25mm
〈赤レベル〉★★★★★
①♀-1と同程度の個体です。これでもなかなか赤いと思うんですが、⑧♀-4個体を見た後でだと「うん…それほどでもないな…」と評価が落ちてしまうんですな、残酷だ…
⑪♀-7(マット飼育)
蛹室内部が見えず蛹化・羽化日は不明
2024年8月14日 羽脱 26.7mm
〈赤レベル〉★★★★★
この個体は撮影用ボードの上でじっとしてくれなかったので、妥協して摘まんで撮りました。羽脱するまで触らなかったのにこういう動きをする個体は、ブリードに使わない方がいいのでしょうね。
⑫♀-8(マット⇒カワラ菌床飼育)
2024年4月15日 ディキャッツ製カワラ菌床500ccカップへ
2024年8月 羽化確認
2024年10月 羽脱 28.7mm
〈赤レベル〉★★★★★
ここからの3個体は、マット飼育 “オンリー” ではなく、気まぐれに途中からカワラ菌床に入れて羽化したものです。一度エサ交換したので、マット個体より少しだけ蛹化のタイミングが遅れましたね。
そんな本個体ですが、いやぁ~~…真っっ黒ですね。
⑬♂-5(マット⇒カワラ菌床飼育)
2024年2月29日 3令脱皮
2024年4月15日 ディキャッツ製カワラ菌床500ccカップへ
2024年8月17日 羽化
2024年10月 羽脱 43mm
〈赤レベル〉★★★★★
赤みはあまりありませんが、やはり菌床に入れただけあって大きくなってくれました。唯一の40mmオーバーです。
大きくなってくれた事で、歯型にちょっと特徴らしきものが見て取れます。大腮が根元からストレートに伸びていて、先端の湾曲が弱く、最大内歯の突き出しが弱いです。個人的な見解ですが、こうした歯型の個体は今まで地元の採集をしていて見る事はありませんでした。こういうのを見ると、「遠くに行って採ってきたんだな~」としみじみ感じ入ります。
⑭♀-9(マット⇒カワラ菌床飼育)
2024年4月15日 ディキャッツ製カワラ菌床500ccカップへ
2024年8月6日 羽化
2024年10月14日 掘り出し 29mm
〈赤レベル〉★★★★★
最後の1頭。この個体は撮影時には唯一まだ羽脱してなかった個体で、掘り出して撮りました。しっかり固まっているのですが、それにしても黒い…もはや菌糸を食わせると黒くなるんじゃねぇの? と疑いたくなります。
ちなみに、こうして見返すとやはり菌床組はマット組と比べて明らかに大きくなりましたが、全頭最終的に上でグルグル回ってフタの真下に蛹室を作りましたからね。内容的には良くなかったですよ、「暴れ食い」ですもん。
以上、14頭が無事に羽化しました。
最初に採ってきた個体数が17頭だったので、全頭無事にとはいかず残念ですが、それなりにグラデーションを確認できたのは楽しかったです。
ちなみに、せっかく2産地いるので並べて比較してみました。♂は個体差が激しいので、♀だけですけども。
どっちがどっちか判りますかね?
青森県産は前回記事の風間浦31mm、紀伊大島産は⑭♀-9の29mm個体ですが、全く違いがありません。判るのは、紀伊大島の方だけちょっと赤いと云う事だけ。
接写して小楯板周辺の点刻を見比べてみますが、どっちがより密で、より深いか、毛の長さなどもまるで違いが見つかりません。朝鮮半島くらい分布が飛ぶとほんの僅かに点刻に差が見られるのですが、そっちですら亜種になっていないのですから紀伊大島程度では無理がありますね。
羽化個体の観察はひとまずこれくらいに留めておいて、次はブリードですね。
一応すでにペアリングして産卵セットに入れたヤツもいるのですが、ヒラタ共々越冬態勢に入ってしまったので進展は来春以降です。
思い出の詰まった虫なので、今後も選別や大型化を楽しみながら飼育を続けていこうと思います。
つづく
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