数多く経験した哀しい出来事のうちでも、個人的に特に大きかった出来事が今年ありました。
それが、セラートゥスネブトの累代停止。
実を言うと、セラートゥスネブトの累代は前回の記事後 “とあるアクシデント” に見舞われ、不覚にも終了せざるを得ない事態に陥ってしまいました。詳しく書く事は出来ないのですが、幼虫が溶けたとかそういう話ではありません。
大変思い入れのある種だっただけに、立ち直る(吹っ切れる)のにだいぶ時間が掛かりました。正直言うと、今でも結構思い詰める事があります。おまけに某SNSであまり目に入れたくない会話を見て少し嫌気がさす事もあったのですが、それでもやはり喪失感はここ数年で味わった事の無いくらいのものがあります。
加えてアクミナートゥスネブトも早々に産卵に失敗し、我が家でのネブトは全て飼育終了の一途を突き進んでいました。
何か…、何かまたネブトを飼育したい……!
ネブトクワガタの飼育は、他のメジャーなオオクワやらノコギリやらとは全く違う独特の世界観があります。これを言葉で説明するのは非常に難しいのですが、飼育に際して「マット」に向き合う濃度が他より濃いんですよね。そして、野外品を手に入れてそれを産ませられるのかと云うギャンブル性が強い点、多様な種が存在するコレクション性など、特定の性格の人が強烈に熱中してしまう要素を多分に含んでいる点は他属のクワガタにはなかなか見られないものと思います。
ネブト飼育においてまだ初心者である自分にとって「飼ってみたいもの」「成し遂げていないもの」、数限りなくあるのですが、先の経緯でネブトに飢えていた晩夏のある日、これらを満たしてくれる “それ” が目に入ってしまいました。
『8月30日通関』と記された野外品のペア。
ネットオークションにて発見しました。
即決価格は設定なし。ウォッチリスト登録者は時間経過と共に増えていくものの、値が張っている所為か入札者は誰もいない…
決めた! 落札してやる!
…ただ、入札を迷っている他の人がいたとして、こちらが早まって入札するとその人を刺激してしまうかもしれないと予想。入札合戦と云う苦しい展開が起こるのを極力避ける為、そのまま静観して「値下げ再出品になるような雰囲気」になってきたオークション終了直前に、すかさず “刺して” 一撃落札してやろうというシナリオ。
数日が経過し、いよいよ終了日。オークション終了時刻は20時30分。入札は未だゼロ。
この夜はライトトラップの真っ只中です。山の中ギリギリ通信が可能な状況で、飛来する虫も観察しつつスマホもチラチラと確認。入札ボタンの反応を確かめる…
20時29分… 60秒を切った…
あと30秒… まだ…まだ…
あと20秒… 『入札する』をタップ。
15秒… 金額を入れて最終確認!
10秒… 入札確定を押す!
入札を受け付けました。あなたが最高入札額者です。
20時30分
おめでとうございます!!
あなたが落札しました。
一人相撲、ここに極まれり。まぁ何にしても、想定通りに事が運んだので良しとしましょう。ただ、この時やってたライトトラップで良い虫は何も落ちてこなかったのですが。
それから少し経った9月15日、青森の交差点を渡って……
クーランネブト ルソン島 ケソン州 ジェネラルナカール
ネブト最高峰、降臨!!! ヘビー級王者電撃復活!!
12年ぶりの再会を果たしました。
ビルドアップしたボディのシルエットはマッシブかつタイトでラクジュアリーです。
存在感はまさに究極レベル!!! WILDは標本価値が高くベリーレア種となります。
近年は採集地の環境変化により採集が難しくなっている種です。
最高の状態で入荷しています。
特別な生体ですが、特に証明書の発行などありません。
…いや…別に本種がネブト最高峰だとかは個人的には思ってないんですけど、この秋たまたま手に入れた石英を見てたらこのネタをやりたくなっちゃって…それだけです。
本種は12年前に一度飼育経験があります。その時はネブトの飼育経験も皆無に等しく、あっけなくブリードは轟沈して終了してしまったので、いつか機会があればリベンジしてやろうと考えていました。
ただ、昔は野外個体も安く手に入ったものでしたが、年を数えるごとにラグジュアリーな価格になっていき、おいそれと手が出し辛い虫になっていました。
そんな時勢にありながら、我が家のネブトが消滅していく状況に激しい焦燥感を覚えまして、今回のクーランリベンジを発起したワケなのです。
[種の解説]
【学名】Aegus currani Felsche, 1912
【体長】♂37.4~73.5mm(飼育最大66.6mm、飼育最少31.6mm) ♀30.0~32.2mm(飼育最大39.6mm)
【分布】ルソン島中東部
Aegus属の最大種。♂の大腮が個性的で、Dorcus属のような造形でありながら大型化すると先端が内巻きになってきてスーパー大歯にもなると云う独特な形状です。一方で胴の部分はシンプルで、突起などの装飾は無く全体的に艶消し状。
体長は所々からデータを集めて組み合わせましたが、野外最大として引用した73.5mmは、BE-KUWA40号にも載っている虫研所蔵の個体の数値です。
Philippine Jounal of Scienceの1912年Vol.7 No.2の中でラグナ州サンタ・マリアをタイプ産地として記載され、長年珍品扱いされてきた後に隣のケソン州で多産地が見つかりました。
[生体の国内流通]
ジェネラルナカール産が輸入されはじめた頃は、今からすればそれはそれは安く手に入ってた記憶があります。現地では決して軽んじられてたワケではないと思いますが、流通の末端においては「ヒラタが本命でこれはあくまでも抱き合わせ」みたいな感覚で、大きくなければ数千円レベルで取引されていた記憶があります。自分が初めて買った時はちょっと値上がりしていたようですが、それでもペア10,000円前後の虫でした。そこから一時期ほとんど(全く)入荷が無くなってしまった期間があって、再び入荷が始まるとドドンと値が跳ね上がったと云う流れだったように個人的には記憶しています。
片や、飼育品の流通は昔と比べて増えてきたように感じます。野外品の入荷が不安定な分、熱心なネブト飼育者が大切に国内に遺そうとしたのでしょう。飼育のコツが段々広まってきて、今と昔では生き虫の供給が輸入個体と国内個体で逆転したようにも感じられます。
ただ、ネットオークションなど見ていると、飼育品の流通にも少しばかりクセが感じられます。と言うのも、単純に「♂♀ペア」とかじゃなく「♂単品」「♀単品」みたいなのが目立つんですよね。何となくですがこれって、『新規飼育者に広めよう』じゃなくて、『既に飼ってる人だけで内々に回して助け合おう』と云う計算があるようにも感じるんですよね(価格暴落の抑制とでも言いたげな、ね)。
[入手個体について]
最高の状態で入荷しています!(←もういいわ!)
ネブトの場合、野外で大方産み終えてしまったのがキャッチャーに捕まるのでハズレ個体が多いなんて話も聞きますが、手で持った感触では重いのか軽いのかよく分かりません。
腹端部を見ても、至って問題なくキレイな感じですけどね。
最近チラッと聞くのですが、
近年は材割りとかで活動前の個体が採集される場合があって、そういう個体は蔵卵は心配ないかわりに産卵スイッチが入りにくい…なんて話があるとかないとか。
[飼育開始から現在まで]
ドキドキのクーラン野外品リベンジですが、
そこに、
遥か大昔に作って余していた赤枯れフレーク(左)と、セラートゥスネブトの飼育で使った廃マット(右)も加えます。
さらに、いつの日か使ったウルトラC↓↓
シロアリフレークも準備しました。
(↑↑画像は、新たに購入したシロアリ入りカップからフレーク材とシロアリを丹念に分別しているところ。マジで作業が細かくてツライ)
マット3種の配合比率を変え、アクセントがつくように層を作ります。
そして上層部に親♀の産卵誘発効果を狙ってやや濃いめにシロアリフレークを混ぜ込み、地表を均して完成です。
そして、
ゼリーと♀単独をケースに入れたあと、24~25℃設定の温室に押し込みました。
セットを組んだのが10月24日。
ヒメオオ採集やら何やらにかまけていた所為で、産卵床の材料を用意するのにモタついて1ヶ月以上時間を無駄にしていました。
12月末現在、こちらもゼリーの投入以外はセットにノータッチ。本種の場合、小まめにセットをバラして卵の有無を確認していった方が理想的なのだそうですが、そろそろ一回ケースを暴いてみようと思います。年明け後いつ頃になるのかまだ予定が立てられない状況ですが、次こそWF1を採って前回の無念を――そしてセラートゥスらの喪失感の埋め合わせをしたいところです。
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