今回の増種は、過去飼育経験のあった前回までの2種とは違い自身初めての入手となります。
フォルフィクラノコギリ(原名亜種) 広西壮族自治区 防城港市
鋸、但し黒虫。
「黒いけど薄っすらワインのような赤みが差して~…」などと云うそこらの “なんちゃって黒ノコ” とは違う、「正真正銘の黒」を纏う稀なノコギリです。
背面は勿論、腹面にかけても一分の隙も無く黒です。
正対して見るシルエットはノコギリの中では独特な方ではないでしょうか。ちなみに、古くから俗に『マルバネノコギリクワガタ』と言われているのは台湾に分布する亜種アウステルス(ssp. austerus)の方です。ただ、現地での呼び名はこのマルバネ呼びを採用して『圓翅鋸鍬甲(台湾では圓翅鋸鍬形蟲)』と表記されています。
本種の一番の特徴が、この左右非対称の大腮。
ノコギリ系だと「鋸歯の並びが左右でバラバラ」程度の事は他でもよく見られますが、最大内歯が左右で違う方向を向いているのは面白いですね。
なお水平位置で見ると、個性の失われたありがちなノコギリ体型に成り果てます…
当然ながらペアで入手したと云う事で、♀の方も観察してみます。
こちらも真っ黒! そして普通のノコ♀体型!
当然ブリード目的なので頭部もよく観察してみますが、擦れも少なく状態は良好です。手に持った感じもきちんと卵を持っていそうな重量感です。
新しく入荷した在庫 1種類
ブログに載せた在庫 98種類
現在飼育中の在庫 18種類
2025年は近年としては珍しく複数のフォルフィクラが生体で輸入されました。遠い昔には奈良オオクワセンターあたりがゴソッと仕入れてくるなんてこともあったみたいですが、それからほどなくして中華便が激減して本種も流通上ではレア物扱いになってしまいました。その後は細々と貴州省や四川省からのクワガタが入る程度の入荷量で、ある頃から広西壮族自治区から複数種ボチボチ入ってくるようになって…と云う流れで本種もごくたまに見るようになったんだったかな。
ちなみに台湾亜種は大陸よりレアな事と、近年現地の人達の飼育人口が増加して採集個体が日本にまで回されなくなったのか、現在は全く入荷の話を聞きません。
話を戻して今年の入荷についてですが、自分がこのペアを買った八王子のショップもこの年は複数入荷していまして、さらに別のショップではベトナム亜種ナカムライ(ssp. nakamurai)も入荷するという、“当たり年” でした。あまり書きたくはありませんが、この入荷量でも決して多いとは言えません。近年のクワガタの方々での扱われ方を見るに、今年自分があんな値段で買えたのは幸運と言う他になく、今後生体価格は上がる一方なのではと考えてしまいます。
ちなみに、今回入手した防城港市ラベル、初めて見たのですが

地図で括るとこのエリア(赤点線部分)、ベトナムとの国境付近です。
ちなみにちなみに、同じく今年入荷したベトナム亜種の方の産地はバックカン省。中核のバックカン市(黄枠部分)を参考として位置を示すと……結構近いんですねェ。
コンディションチェックも兼ねて、ゼリーを与えて様子を見てみます。
ゼリーにもよく食いつき、♀はその後徘徊をはじめたところを見るに「準備万端!」といった様子。
それでは早速ブリードの方に移っていくのですが、内心ビビリまくりです。
これは本種を知る人なら解ってくれると思いますが、このフォルフィクラという種はノコギリ属でありながら飼育難度が高く、幼虫飼育どころか産卵すら簡単ではないと云う規格外なクワガタなのです。
幸いにも? 超難度で別格扱いの台湾亜種と比べるとこちらの大陸産はまだ少しマシな方らしいのですが、ネットで情報を収集しても「僅かに幼虫が採れた」程度の内容しかなく、あとは “ブリード玉砕記” しかヒットしません。
材産みがメイン、好む材の状態・種類が不明、――という話は知られていますが、そこから先は手探りになります。
セットを組む前段階で、国内&台湾のウェブサイトやフォーラムを検索にかけた他、専門誌のバックナンバーも読み返しておきます。
| 【参考にした昆虫雑誌】 くわがたマガジン No.17(2004年) …原名亜種の産卵飼育の記事が掲載。 BE-KUWA No.41(2011年) …飼育ギネスコンテストにて原名亜種初登録。 BE-KUWA No.45(2012年) …飼育ギネスコンテストにて原名亜種更新。 BE-KUWA No.49(2013年) …飼育ギネスコンテストにて台湾亜種初登録。 BE-KUWA No.89(2023年) …飼育レコードコンテストにて台湾亜種更新。 |
産卵木(産卵材)をメインに据えてセットを組むという事で、大型ケースを使ってセットを組みました。
↑↑完成後の内観。
使用ケースはBeケース(大)。その中に産卵材を3本入れたワケですが、コンディションを変えて入れてみました。
使った産卵材は、3種類↓↓
・ホダ木 芯なし・細物
・砂埋め霊芝材 芯あり・ハーフ輪切り
・天然ブナ材 芯あり
これらやわらかめの材に対し、こんなアイテムを加えます↓↓
濃縮バク産水 産卵床用の調整剤(補助添加剤)です。観賞魚飼育用品のPSB(水質浄化用バクテリア)を昆虫飼育用に改良した製品です。こういうのが少し前から流行りだしたようで、現在は同様の用途で別メーカーからも商品が出ていたりもします。 |
このバク産水、通常はマット産卵用に加水の過程で加えるものですが、今回はこれを産卵材の加水に使ってみます。
希釈してバケツに張った上から材を浸けるのですが、全身は浸けずに半身だけ浸けます。
これで一旦浸け終えたら、今度は未加水のもう半身を通常のミネラルウォーターで浸けて給水させます。
加水が終わったこれらの材を、双方の加水部が分かれるように産卵一番で半埋めにします。ついでに、この産卵一番にもバク産水を混ぜ込んでおきます。
改めて図解すると↓↓
3種類の材で、2種類の水で加水、地上部と地中部とその境目。
♀にはとにかく色んな選択肢を作ってあげるようにしたわけです。
あとは転倒防止の水苔、プロゼリー、そして親♀を入れてスタートしました。
以後、都度都度ゼリーを足しつつ観察していますが、なるほど難関種と言われるだけあって産卵行動の様子・痕跡が見られません。潜っている事もありますが、わりと徘徊していたりゼリーを食べているシーンが多いです。
止まっている…。
数週間経ってもセット直後から中の様子に変化が起きません。「産卵が難しい」という話は伊達じゃありません。
さてこうなるとどうしたものでしょう。
貧乏性の自分には流石にセット解体⇒別セット作成などと思いきることは出来ません。
セット自体は継続としつつもこの状態にショックを与える手段として、♂を産卵セットに同居させてみる事にしました。
♀殺しのリスクが無いわけではありませんが、追い掛けして♀に産卵スイッチが入る事を期待してのものです。それに、万が一ですけど未交尾の可能性も無い事も無いですからね(6月の入荷は、本種としては早めの時期ですからね)。
さて、それから半年が経過しました。
12月21日、長らく手を付けずに温存していた産卵セットをいよいよ暴きにかかります。
月日の経過を物語る見事なドロドロ具合です。♂はボロくなる前に標本にし、♀はこのままセット内で果てるまで居てもらってました(幸いにも♂による♀殺しは無し)。という事で当然、途中で別のセットを組むこともありませんでした。
産卵材は黒くなり、粘菌が蔓延っています。
ケース外側から見ると、マットが分解と乾燥で縮んで壁面に隙間が出来ています。少なくとも、幼虫がマットにいないであろう事は推察できます。
ケース内部の様子を紹介したところで、それでは先に結果の方から書いていきましょう。
【結果】
ゼロ。難関突破できず。
発生初期の入荷品を入手し、♀の状態も良かった事を考えると、言い訳無しで失敗と言わざるを得ません。内心、「3~4頭くらいならなんとかなるよナ!」と楽観していただけに虚脱感が半端じゃありません。飼育技術や情報が豊かなこの時代でもなお、難しいものは難しいんですね(そんなもの関係なく自分がただ成長していないだけだったら悲しすぎる…)。
まぁそもそも、難関種のブリードなんて何度も失敗して攻略していくものですから、たった1回玉砕した程度で折れていられないものなんですが…
しかしそんな中で僅かに産卵の痕跡も見られたので、記録用に各産卵材の状態を記しておきます。
まずはホダ木から。
分解がおそろしく進んでいて、状態はボソボソのグスグスになっていました。「割る」と言うより「手で開ける」くらい軟らかくなった材には齧った痕すらありませんでしたが、一つだけ気になる事として↑↑の写真(オレンジ枠内)のような食痕が1本のびているのが見つかりました。何か、最初からこの材に入っていた雑虫のものの様にも見えるのですが、念のため記録しておきました。
こちらは砂埋め霊芝材。
地上・地中部の境目のところにこんな空間があったのですが(黄色枠内)、マットを掃って見ると、材を齧った痕が付いていました。齧った先には産卵の痕跡は見られなかったのは残念ですが、これって「途中まで齧ってみたけど、その先が気に入らなかったから産卵を止めた」とかなんでしょうか。
そして、一番惜しかったのが天然ブナ材でした。
明確に1ヶ所、産座まではっきりと空間として存在していました(オレンジ枠内、この奥に産座がきちんとあります)。割って中を確認すると一見して空っぽのようでしたが、卵の腐ったものか木屑かよく分からない粒が残っているように見えました。場所的には比較的綺麗な面で、もし実際に卵が産みつけられていたとしたら外的要因(カビ等)で腐ったのとは違うのかな? とも思ったりして。
ちなみに、写真左側に見える穿孔は元からの雑虫痕です。
おまけでマットの方も見ましたが、(写真だけでは判りにくいですが)腐敗・劣化が進み、幼虫が弱い種類ならすぐさま死亡してしまうような劣悪な状態で、幼虫が材から出てきた痕跡なども見られませんでした。論外ですね。
以上からしての所感ですが、
①産卵痕・齧り痕の数が少なすぎて、バク産水の使用に効果があったのか不明。
②マットや産卵材の腐敗を見るに、半年管理とは言えバク産水は使わない方がよかったかも。
③今回だけを見ると、(ホダ木の)細材は使わない方がよさそう。
④③の事から、大径材の方がいいかもしれない。
⑤材の状態をバラエティーに富ませる為に材を半埋めにした事はやはりベターだった。
今期本種に挑戦した人の中には辛くも幼虫を得られた人もいたようで、羨ましい限りです。過去の飼育情報を色々と見ても、「複数セットした♀のうち1頭だけ産卵した」とか、幼虫を得たにしても「たまたま」と言う他にないような話も多くて、成功の鍵は「♀の蔵卵や寿命次第」でなく「♀を産卵に向かわせるやり方」を考える必要があるのではと思えてなりません。
いずれにしても次が無ければ単なる引かれ者の小唄にしかならないので、リベンジ候補として来期以降も入荷情報はチェックしたいと思います。
というワケで、2025年の新規挑戦種は年内での幕引きとなってしまいました。
巷に転がっている “ブリード玉砕記” の堂々仲間入りと云う事で、こちらは一旦カテゴリ終了です。
お疲れさまでした!
現在飼育中の在庫 17種類

この記事へのコメント
No.7
フォルフィクラノコなんてやられてたんですね。
濃縮バク産水、僕も使用してみましたけど
なかなか香りがキッツイんですよね。。。
ただアレ、〇〇を✕✕して△△すると
なかなか良いですよ、、、
会長
フォルフィクラ、もしオークション出品だったら自分には付け入る隙が無かったかもしれないくらいマニア向けの虫ですからね。今回は運が良かったです。
自分も結構ミーハーですからね、こういう風変わりは大好きです。
バク産水、使ったことあるなんて意外ですね。匂いは驚きましたけど、だからこそ効きそうって思ったんですけどね…
自分にはこれ合わないっすわ、これもダメ、ヒラタもダメ、コクワもダメ。こないだ残りカスをギラファに使いましたけど、もう一向に卵見えません何なんすかコレ!逆に産卵抑制効果あるんじゃない!?
トイレにでも撒いた方がマシだったかも。EM菌か!